ジャーナル/Plant Science & Curiosities · 6分で読めます
菌根菌とは?植物がすでに結んでいる「地下の取り引き」
多くの植物は根の働きの一部を菌類に任せ、糖と引き換えにリンや水を受け取っています。菌根菌とは何か、どんな植物が共生するのか、市販の菌根菌資材の効果について研究が示していることを解説します。
かんたんに言うと
菌根菌は植物の根に共生する土壌の菌類で、植物がつくる糖と引き換えにリンや水を届け、実質的に根の範囲を広げます。長く使われている庭の土には、たいていすでに存在しています。市販の菌根菌資材の効果を裏づける証拠は弱く、耕しすぎない、肥料を与えすぎない、生きた根を土に残す、といった工夫のほうが効果的です。
元気な植物をほぼどれでも掘り上げてみると、そこにあるのはひとつの生き物ではありません。根のまわりに巻きつき、多くの場合は根の内部にまで入り込んでいるのが菌類で、どんな根よりもはるかに細い糸を土の中へと伸ばしています。この共生関係を菌根(きんこん)といい、文字どおり「菌の根」を意味します。植物学の片隅の珍しい話ではありません。陸上植物の大多数が菌根をつくり、この関係は数億年前から続いていて、私たちが知る根の形よりも古いのです。
最初に3つの用語を押さえておきましょう。菌根とは、根と菌が一体となった共生のしくみそのものです。菌糸は実際に働く菌の糸で、太さは数千分の1mmほど。土の粒のすき間や、根では太すぎて入れない細かな孔にまで入り込みます。菌根菌資材は園芸店で売られているもので、植え付け時に共生を始めさせることをうたった胞子の袋です。前の2つは確立した生物学ですが、3つ目は、これから見ていくように根拠が乏しくなる部分です。
菌根菌の取り引きをわかりやすく
この交換はシンプルな経済で成り立っています。養分を探すのは菌のほうがずっと得意です。菌糸は実質的な根の範囲を大きく広げ、特にリンを集めるのが得意です。リンは土の中をほとんど移動せず、根が届くすぐ外側で動けなくなっていることが多い元素です。菌はこのリンを、水やほかの養分とともに根の中へ届けます。その代わり、菌は光合成ができません。報酬は、植物が葉でつくって根へ送る糖です。植物が自前の配送網を持つ代わりに雇っている宅配業者だと考えてみてください。業者は植物が決して届かない住所まで行き、植物が自分で「印刷」できる唯一の通貨、つまり炭素で支払いを受けます。ちなみに、この菌のネットワークは、植物が近くの植物に信号を伝える経路のひとつでもあります。
ひとことで「菌根」といっても3つのタイプがあります
「菌根」にはいくつかの異なる共生の形があり、植物がどれをつくるかは祖先から受け継いだ性質で決まっています。じょうろでどう水をやるかとは関係ありません。
| タイプ | 菌の伸び方 | 代表的な相手 |
|---|---|---|
| アーバスキュラー菌根(AM菌) | 菌糸が根の細胞の中に入り込み、内部で枝分かれする | 多くの庭の植物:トマト、ピーマン、カボチャ、インゲンなどの野菜、ほとんどの草花、芝生 |
| 外生菌根(ECM) | 菌糸が根を包み、細胞の中ではなく細胞の間を伸びる | 樹木:ナラ・カシ類、ブナ、カバノキ、マツ、ハシバミ、ヒッコリー、多くの針葉樹 |
| エリコイド菌根 | ヒース類の非常に細い根の中に、細かな菌糸のコイルをつくる | ブルーベリー、ツツジ・シャクナゲ類、エリカなどのツツジ科植物 |
一部の植物は、この共生にまったく参加しません。キャベツ、ブロッコリー、ケール、ダイコンなどのアブラナ科や、ビーツ、フダンソウ、ホウレンソウは、機能する菌根をつくりません。どんな資材でもこれは変えられないので、パッケージに書かれた効能を見分けるときの最初のフィルターになります。
市販の菌根菌資材に効果はあるのか
ここで、しくみと商品の話は別れます。共生そのものは光合成と同じくらい確かな現象です。しかし、胞子を買って一般的な庭で何かがよくなるかは別の問題で、研究結果は厳しいものです。コネチカット大学の家庭園芸向け普及機関がまとめたメタ分析では、市販資材による処理のおよそ80%で、根への定着がごくわずかか、まったく見られませんでした。また、2025年のチューリッヒ大学による評価では、家庭園芸向けに販売されていた7製品のいずれも、管理された条件で共生を成立させられませんでした。胞子は生きた素材です。倉庫や店頭の棚で過ごす時間は胞子にとってよいものではなく、ある宿主植物で増やした製品が、別の植物には合わないこともあります。
さらに根本的な問題は、たいていの場合その資材がそもそも不要だということです。何年も植物が育っている花壇や芝生、植え込みの土には、自然にやって来てその土に適応した菌根菌がすでに住んでいます。機能しているネットワークに買った胞子を加えても、はっきりした利点はありません。英国王立園芸協会(RHS)は大学の普及資料より菌根菌資材に好意的ですが、それでも特定の状況に限って勧めています。新築の造成地や工事で表土がはがされた場所のように本当にやせた土と、ピートフリーの培養土のような無菌に近い用土で、微生物が一から始めなければならない場合です。使うなら、両方の情報源が実践面で一致しています。植え付け時に若い苗の根に直接触れるように施すこと、在来の菌種をもとにした製品を選ぶこと、同時に肥料を与えないことです。
すでにいる菌根菌を増やすためにできること
資材売り場の皮肉なところは、菌が「加えるもの」よりも「やめること」にずっと確実に反応する点です。いちばんわかりやすいのが肥料です。根元にリンがただで届く植物には業者を雇う理由がなく、肥料をたっぷりもらった植物は共生を縮小したり、やめてしまったりします。殺菌剤が菌類に害を与えるのは言うまでもありません。そして耕すことは、菌糸のネットワークを物理的に引き裂きます。植え付けで本当に必要な場合を除き、土の構造をそっとしておくべき理由がまたひとつ増えます。冬のあいだも土に生きた根を残しておくことも役立ちます。畑を裸地にせず、緑肥をまくことを勧める、目立たないけれど大切な理由のひとつです。
ちょうど秋は、多くの人がいちばん土を動かす季節です。庭木や花木、裸苗の植え付け適期だからです。新しい植物に地下の契約を早く結ばせたいなら、植え穴に濃い肥料を入れるのではなく、植え付け場所全体を有機物で改良し、しっかり植え付けて、最初の数シーズンは肥料を控えめにしましょう。宅配業者はほぼ間違いなく、すでに近所にいます。あなたの役目は、植物に彼らを雇う理由を与えることです。
参考文献・出典
執筆者について

植物の科学と不思議
レナさんは植物学者で、植物の一番不思議な点は「なぜそうするのか」をほとんど問われないことだと考えています。光合成、植物どうしのコミュニケーション、病気の生物学など、ジャーナルの科学的な側面を担当し、研究の成果を鉢植えの前ですぐ役立つ形に翻訳しています。
